木の上から飛び降りたユダは虎裁の前に降り立つ 目の前にいきなり現れたユダを見て虎裁は目をまるくして口をぱくぱくさせていた
その動揺している虎裁の肩を両手でガシッと掴むとユダは激しく揺すりはじめた
「そ、それは間違いないのか?虎裁禅師!!あの小娘、サクラは浜名湖へ行ったのか!?」
虎哉は頭がガクガクとなりながらも話そうとしているのだが はげしくゆすられているため話す事が困難になっていた
「ちょ、ちょっと とま…止めて…」
取り乱しているユダを葵が制す 虎裁の前にいきなり現れたはずのユダを見ても葵は少しも動揺していなかった
まるでユダが近くにいることを知っていたような感じだった 実際、葵はユダの存在をわかっていたのだが話す必要もないと思いだまっていた
「ユダやめなさい!そんなに激しくゆすっていたら虎も話せないでしょ?」
ユダはハッとして虎哉の身体から手を離した そして改めて虎哉に問いただす
「虎裁禅師さっきの話はホントですか?サクラが浜名湖へ行ったって!?」
「ゲホッ ゴホッ せ、拙僧も行ったという話しを聞いただけでして…ユダどの、サクラどのを知っているのですか?」
「そうか、浜名湖に…失礼する!」
そういうとユダは風のように走り去っていった 残された虎裁と葵はユダが走り去った方を見ていた
「一体…なんだったのでしょう 葵どの…ユダどののあの慌てようは尋常ではありませんが」
葵は腕を組み何かを考えていた 虎裁は葵の言葉を待った この小さな僧は一体何を考えているのだろう?
まさかまたよからぬことを考えているのでは?
「葵どの?どうかされましたか?」
「虎 あなた何か話を聞いてない?」
「はて?話をいうとどんな話でしょう?」
「そっか聞いてないのね、各地で魑魅魍魎のたぐいが現れているって話なのよ あたしもここへ帰る途中で小耳に挟んだ程度だけどね」
「魑魅魍魎…ですか?」
「そう、だから陰陽寮に警戒するようにって伝えに来たんだけど…」
「そうだったのですか それはご苦労さまでした」
「でもダメね あの頭でっかちは聞く耳ってのをもってない!こちらはこちらで動く!よそ者が口を出すな だって…まったく人が親切に教えてあげてるのに!!」
「まぁまぁ葵どの とりあえず伝えたということでよしとしましょう」
「・・・……やっぱり腹が立つわね…よし決めた!」
またよからぬことを企んでいるのではないかと虎哉は心配した 見るとその小さな体に似合わない大きな薙刀を葵はギュッと握り締めている
「葵どの 何をする気ですか?」
「そんなの決まってるじゃない その魑魅魍魎っていうのを捕まえてあの頭でっかちの前に持って行くのよ! そうすれば一目瞭然でしょ」
「そ、それはそうでしょうが危険でしょう?あぶないでしょうし考え直してはもらえませぬか?」
「いいえ あの頭でっかちの鼻 へし折ってやらないと気がすまないわ!ユダも急いで行った事だし 多分、浜名湖には何かいるわね」
そういうと葵は門へ向って歩きはじめる 虎裁は歩き出した葵の小さな背中に向かって声をかける
「あ、葵どの どちらへ?ま、まさか…」
「決まってる浜名湖よ!あの頭でっかちの馬鹿に目に物みせてやらないと気がすまない」
こうなってしまった葵は止められない ドスドスと音を立てて歩いていく葵を虎裁は見送るしかなかった
昔から負けず嫌いなところは変わっていないな ただ…見た目だけは昔のまま変わらないのだけれど
いったい何をどうすればあの姿のままでいられるのか…
一歩間違えれば葵どのが一番不思議な生物のかもしれないなと虎裁は思っていた
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