阿波から出る船に一人の少女が乗っていた 黒を基本とした束帯に身を包み 菩薩の錫杖を手にしていた
陰陽師と一目でわかる格好のその少女は船の先端に立ち静かに海を見ていた
「おじょうちゃんそんなところに立ってると海に落っこちるぞ?」
船頭がその少女に声をかける 少女が不安定な場所で立っているので声をかけたのだが 少女は一瞥するだけでその場所から動こうとはしなかった
やれやれ落ちても助けないからなと船頭はいい自分の仕事に戻っていった
それでも少女はやはり海を見ていた
「この先にいますのね まったくお姉さまったらわたくしを置いて一人で旅に出るなんて…」
プンスカと怒り始めたかと思うと今度は一転してクスクスと含み笑いをはじめた
「ふふふ……ですけどお姉さま 今まいりますわよ待っててくださいね」
少女はまた海を見つめた 早く、もっと早く進めと祈りながら
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